福岡天神中央公園クリニック
心療内科精神科

ウツを呼びこみやすい考え方(認知パターン)


 うつ病に限らず、抑うつ的になりやすい人には、よく見られる特徴的な思考パターンがあります。具体的にそれらを紹介していきたいと思います。

 まず、「全か無か」いわゆるall or nothing といわれる考え方です。

 物事を100点満点か0点かと極端に考える癖で、完全主義ということもできます。
 100点を延々といつも取り続けるのは、人生においてまず不可能です。95点でも十分なのに、満点でないともうダメ、意味がないと考えてしまいます。少しでも何かが欠けてしまうと、もう全て駄目だと考えてしまいます。95点得点したと考えるのではなく、5点マイナスで100点をとれなかったからダメだ、無意味だと感じてしまうのです。

 2番目は、「過剰な一般化」といわれるものです。

 これはたった一つの失敗や、いやな出来事が、アメーバのように全ての事柄に侵食し、全てに対してネガティブな評価をしてしまい、否定モードになってしまうものです。
 例えば、英語には自信があるビジネスマンが、1人の訛りの強い英語がわからず、商談の場面でスピーディーに返答ができなかったとします。そこで、彼もしくは彼女が、やっぱり自分は仕事ができない、役立たずなんだ、これで契約はご破算だとか考えてしまうケースです。
 この場合、一つの失敗で確かにスムーズにいかなかったのですが、商談がまとまらなかったのは単純に値段が折り合わなかっただけだったのかもしれません。
 これでその人の能力の全価値が否定されたわけではないのです。しかし、ウツになりやすい人だと、こういった些細な失敗を、自分のせいとして考えてしまい、自分にはいつもネガティブなことばかりおこるので、やっぱり何をやっても駄目なんだと考える傾向があります。
 成功体験を連想することはなく、ネガティブなことばかりを思い起こしてしまうのです。ネガティブな経験を拡大解釈する、といえばわかりやすいかもしれません。

 次は、「肯定的側面の否認」です。よい出来事でもマイナスに考えがちな傾向のことです。

 例えば、ある主婦が、「素敵な奥さん特集」を行うべく取材をしているTVスタッフから声をかけられたとします。この主婦は、きちんとオシャレをしていて、スタッフたちも 「是非インタビューさせてほしい」 といっています。なのに彼女は「ああ、周りには若い子しかいない。私はどうせおばちゃんだし、他に主婦はいないから私に声をかけてきたってことね。」と、常日頃から自分がしてきたケアや努力を忘れ、「そういえば最近はしみも増えたし」と逆に憂鬱になってしまった、というようなケースです。
 これもウツになりやすい考え方の典型例です。物事の肯定的な面には鈍感で、ネガティブな面に敏感な傾向です。なんでもネガティブにばかり考えてしまうといってもいいでしょう。


 次に紹介するのは、「〜すべき」という思考パターンです。

 これは、全か無か思考と関連を持っていますが、ある物事をやるときに、これは絶対にやるべきだ!という考え方しかしない傾向のことです。ここに「ぼちぼち様子をみながらやっていこうかな」というような余地はありません。絶対に「やらねばならない」のです。
 部屋はどんな時でも常にきれいに整理整頓!とか、書類は溜めずにその日のうちに!などといった具合で、この傾向はある意味正論ではあるものの、行き過ぎると苦しくなり、逆に気力を低下させてしまいがちです。

 テキトウすぎるのは困りものですが、「いいかげん」、「良い加減」というのも大事です。

 「結論の飛躍」、「心の読みすぎ」というパターンもあります。
 ちょっとひっかかる出来事があった時に、そこに到る過程や他の可能性を考えず、一気に結論を一方的に出してしまうことです。
 例えば、普段はニコニコ愛想の良い受付の女性が、挨拶を返してくれなかったとします。この時、「自分はやっぱりもてない。挨拶も無視か。存在感ないのかなぁ・・。」と考えて落ち込んだり、憂鬱になったりするパターンです。
 この場合も、たまたま、受付の女性がこっそりテーブル下でメールを打っていて動揺したのかもしれません、コンタクトレンズを忘れて、挨拶をされていることに気がつかなかっただけかもしれません。また、挨拶を返されたのに、当の本人が単に気がつかなかったというケースもありえます。
 このようにいろいろな可能性があるのに、つい一番悪い結論を出してしまうパターンです。

 最後が、「レッテル貼り」といわれる思考パターンです。
 
 これは自ら否定的な自己像を作り上げ、それに名前をつけて自分にレッテルを貼って決めつけてしまうものです。
例えば、「私は運転すらできない。どうせトロいから。」と普段から思いこんでいる女性がいたとします。実際は車の運転は慣れであり、免許をとっても乗らないでいるとぺーバードライバーになってしまい、ふつう運転は怖くなります。この女性は、皆は普通に車に乗っているのに、自分は運転が苦手なので、どこか自分は鈍いところがあるんじゃないかと思っています。そんな彼女がある日職場で、膨大な量の資料を片付けなければならなくなりました。彼女は残業に残業を重ね、かつてない疲労感にどっぷりとはまってしまいました。「私がのろまだから、こんなに時間がかかったんだ。他の部署にまで迷惑をかけてしまって申し訳ない。やっぱり私は、トロいんだ、、」
 彼女が処理した資料は膨大な量であり、誰がやっても時間がかかるのは明白でした。それでも彼女は、かたくなに「自分がのろまだからだ。私はトロい。」と自分にレッテルを貼ってしまうのです。これが「レッテル張り」と言われる思考パターンです。
 何か小さな失敗やスムーズに行かないことがあると、その度に「自分はこうだから、やっぱり結果こうなった」といった具合に、いつもそのネガティブなレッテルに帰結させてしまうのです。


 それでは、このような思考パターンを改善するためにはどうしたらいいのでしょうか?



認知パターンの改善方法

 まずそのパターンに自分なりに名前をつけてみましょう。
 <ダメダメモード>とか<深読みしすぎ傾向>、<減点主義>、<完璧主義>、<all or nothingパターン>とかです。
 しかし、こんな風に自分自身で自分のことを簡単に客観視できるのであれば苦労はありません。
まずは、信頼できる身近な人に助言をもらうのが現実的でしょうか。信頼できる人から、「それって、いつもの××パターンじゃない」という指摘をしてもらえるのが一番です。
 つぎに、上手くいった時、楽しかった時にはそれを何度も思い出しましょう。人は失敗やうまくゆかなかったことを思い出してはクヨクヨします。もちろん、次回に備えて反省も必要でしょう。でも、意外に人は上手くいったときのことを思い出して、自分で自分のことをほめることをしないものです。上手くいった時は「なかなかうまくやれたよね」「われながらよかったな」と何度もそれを思い出してリマインドしましょう。

 人間の思考・行動パターンは長い間にしみついたもので簡単に変わるものではありませんが、根気よく続けてゆくことが必要です。


 これが認知療法といわれているものの基本的な考え方なのです。うつ病からの回復の参考にしてみてください。


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