福岡天神中央公園クリニック
心療内科精神科

うつ病回復の手引き

福岡行動医学雑誌2002vol9に掲載されている「うつ病の森田療法」中村敬先生(東京慈恵会医科大学第三病院)の論文からの引用です。うつの方の治療の手引きとしてとても参考になると思い掲載してみました。

ただ、少し言葉に難しいところがあるので、若い人にもわかりやすいように現代風に少し表現を変えたり、主旨を損ねない範囲で加筆しています。


治療開始時〜一番悪い時期


<下手な考え休むに似たり、果報は寝て待て> 
何をするにも気力がわかず、どん底の気分の時には、何かアクションを起こすことで状態を改善しようとしてもうまくゆかない。焦って行動してもかえって悪い方にいってしまい、ドツボにはまってしまうこともしばしばである。

こういうときはひたすらゴロゴロして休息をとることが大切。一番辛い時期だが、夜明けを信じてじっと待つ。

<通院服薬を欠かさない>
うつからの回復には、通院服薬がやはり必要。クスリに頼らず、自力で治したいという気持ちもよくわかるが、逆に「こうしなくてはいけない」という頑固な態度は自分を追い込みやすい。

柔らかなあたまで、利用できるものは何でも利用する。クスリは自然回復力を後押しする重要な道具であることを忘れずに。


回復初期〜回復し始めたら

<三寒四温は春の便り>
冬の後には必ず春が来るように、どん底を過ぎれば楽になる時期が必ず訪れる。

ただし、元気になりはじめには、日によって状態の変動が大きい。冬の終わりから春の初め頃に、三日ほど寒い日が続き、その後四日位暖かい日が来るのを三寒四温といい、それを繰り返すうちに春が訪れるのに似ている。

<臨機応変>
うつの状態に応じて、活動と休息のバランスをとる。といっても、うつの症状は目に見えないので自己判断が難しい。

一つの手がかりとして、「疲労感」が目安になる。疲労感が強い時には休息を主として、それが軽い時には、手がつけやすいことから行動してみる。

「疲労感」の代わりに「おっくう感」でもいい。この場合、「おっくう感」と「やってみようかな」という気持ちが五分五分なら、とりあえずやってみる。それ以下なら止めておく。「臨機応変」に、動ける時に無理なく行動すればいいのである。

<感じから出発する>
回復期になると、一番悪い時期と違って何もしないで寝ていればいいというわけでもない。そうかといって一足飛びに仕事への復帰を焦ると、回復に必要なエネルギーを消耗してしまう。

この時期には徐々に健康なエネルギーが回復してくるが、まだその力は弱くもろい。

芽生えたばかりの「〜したい」という感じをうまくキャッチして、「こうでなくてはいけない」という気持ちに絡め取られず、自然に行動してゆくことが大切である。

たとえば「外の空気をちょっと吸いたいな」といった気持ちが芽生えたら、外をぶらぶら歩いてみる。くれぐれも一日一万歩といったノルマを自分に課さないこと。外を散歩して「もうちょっと足を延ばしてみようかな」という気になったら、その「感じ」に身を委ねてみる。



回復後期〜本来の状態の60〜70%くらいまで回復した頃。気分は以前に比べると大分楽になっているが、まだ意欲、根気が不十分な時期。


<規則正しい生活を送る、まずスタイルから始める>
ここまで回復してきたら、生活を規則的に整えた方がよい。起床、就寝、食事の時間は大体一定にして、心身のリズムを整える。

徐々に建設的な行動を増やしていくことも大切である。たとえば掃除、洗濯などを少しずつ手がけてみる。近所まで買い物に行く。風呂掃除や洗車、庭木いじりなども気が向いたらやってみる。

生活の形、スケジュールを整えることによって、気分や気力はあとから徐々についてくる。ただし、特別新しいことに挑戦する必要はなく、やり慣れたことから再開するのがよい。

<将来を心配せず、過ぎたことをクヨクヨしない>
うつの時は、過去の後悔にとらわれ、また未来への心配に引かれて、宙吊りのような心理状態にある。

それだけに、今できること、目の前にあることをひとつひとつ実行し、現実に着地することが重要である。

60%の回復状態なら60%の状態なりに、今日一日の充実を心がける。小さな目標(部屋の片づけをする、美容院に行く、衣替えをするなど)を決めて、実行していくのもいい。「今を生きる」ことが大事である。

<朝雨に傘いらず>
社会復帰が近づいてくると、先を考えて不安になりやすい。しかしこの不安感は病気になった初め頃の不安焦燥感とは性質が違う。

「無事に復職したい」「頂調に回復したい」という願いの裏返しであり、むしろこのような不安は自然な気持ちである。

こうした不安は無理に打ち消そうとはせず、一時の雨模様と考え、そのままにしておく。朝に雨が降っていてもそのうち上がるように、たいていは社会生活に戻り、日が経つにつれて自然に気にならなくなってゆく。

<「こうしなくてはいけない」という考えにとらわれず、あるがままの事実を受け入れる>
自然な欲求や感覚が戻ってきたら、その感覚を大事にして、自分に無理を強いるような「こうしなくてはいけない」を見直してみることが再発の防止に役立つ。

たとえば、「仕事に戻るからには、今まで迷惑かけた分を取り戻さなくてはいけない」といった「こうしなくてはいけない」を自分に課している人は多い。

だが 「あるがまま事実」、現実はどうか?病み上がりの状態でいきなり普段通り働こうとするのは、骨折のギプスが取れた途端に走り出すようなものである。負担軽減勤務など、軟着陸のための具体的な方法を利用するのが現実的な態度である。



回復の後に〜再発予防の心得


<一病息災、禍転じて福>
病気をきっかけに以前の生活を振り返り、過労を避ける、自分自身の時間を確保するなど無理のない生活に修正できれば、その後の健康のもとになる。将来の大きな病気を避けることができる。

また自分が病気をしたことで、他人の病や悩みを理解できるようになり、優しくなれる。病気を体験することによって人は成熟する。「禍転じて福」ということである。

<喉もと過ぎても熱さ忘れず>
再発を防ぐためには、病気に対する恐れを心のどこかに残しておいた方がよい。とくに自分のうつ病の初期症状がどのようなものだったのかを覚えておくことは役に立つ。

もし、そのような初期症状を告げる黄色信号がともったら、とにかく思い切って2〜3日休む。予定を繰り上げて受診するなど早めの対処も有効である。

<急がば回れ>
一般にうつ病になりやすい性格の人は、慣れ親しんだ環境では人一倍力を発揮する。ただ、新しい状況に慣れるまでには時間がかかる傾向がある。

異動、転職、転居など生活状況が大きく変化した時は、最初から「完全」を求めず、ゆっくり時間をかけて慣れてゆくことを心がける。

<病は癒ゆるに怠る>
病気から回復すると、服薬、通院を止めることを急ぎがちである。

しかし早すぎる休薬は再発の危険を高めることが知られている。回復後少なくとも半年、なるべくなら1年くらいの時間をかけて減量中止したほうがいい。




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